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EC x サブスクで仕掛けるクリエイターの未来。漫画家・西島大介がShopifyを使う理由。

株式会社TOGLが運営する「西島大介.com」では、ハックルベリーのサブスクアプリ「定期購買」を使用して、「西島大介の漫画が読み放題のサブスク」を実施しています。今回は漫画家がECを始めたきっかけや、日本でもまだ前例のない「作者1人のサブスク」など、漫画とECサブスクで実現する「表現者の未来」についてお伺いしました。

西島大介さん

1974年、東京生まれのマンガ家。2004年に描き下ろし作品『凹村戦争』でマンガ家デビュー。ベトナム戦争を描いた大長編『ディエンビエンフー』シリーズや、ファンタジー長編『世界の終わりの魔法使い』など、史実や空想を題材に、常に独創的な作品を生み出してきました。シンプルでデザイン性の高い絵柄と、シリアスな物語が特徴です。企業・団体等のキャラクター・デザイン、イラストレーションを数多く手がけるかたわら、音楽制作や現代美術家としての展示、ボードゲームを含むグッズ制作など、インディペンデントな活動も行っています。2020年にレーベル「島島」を設立し、作品の電子配信を行っています。

平田提さん

株式会社TOGL代表取締役社長。Web編集者・ライター。秋田県生まれ、兵庫県在住。早稲田大学第一文学部フランス文学専修卒業。ベネッセコーポレーション等数社でマーケティング・Webディレクション・編集に携わり、オウンドメディアの立ち上げ・改善やSEO戦略、インタビュー・執筆を経験。2021年に株式会社TOGLを設立。

漫画家がECサイトを運営する理由

-西島さんの活動についてお聞かせください。

西島:漫画家として活動しています。『凹村戦争』という作品で2004年にデビューし、ベトナム戦争を描いた大長編『ディエンビエンフー』や『世界の終わりの魔法使い』といった作品を描いてきました。僕の作品自体は、カルトというか。知る人ぞ知るっていう漫画ばかり描いていますね。

漫画以外にも「シノビー&ニン丸」という読売テレビのキャラクターをデザインしたり、絵を描いたり音楽を作ったり……。幅広く活動しています。

僕は一般的な漫画家とはちょっと違う漫画家です。漫画家というのは、雑誌で連載して、それを単行本にして…というのが一般的なんですが、僕は描き下ろした単行本を早川書房や講談社といった出版社から、いきなり出すことが多かったですね。 

-なぜ「漫画」と言う商材でECサイトを作ろうと思ったのでしょうか?

西島:漫画家としてはもう17年以上活動しているのですが、2018年に連載『ディエンビエンフーTRUE END』が終わったあと、別の連載企画を出版社さんに持ち込んでも、通りにくくなっていて。そこらへんからインディペンデントな出版について考えるようになりました。 

イタリアとの取引でわかった「自分で出版」の可能性

西島:日本でなかなか企画が通りにくくなってきていた頃、イタリアの「バオパブリッシング」という出版社さんから「あなたの漫画をイタリアで出したい」と、いきなり連絡が来たんです。僕は色々な出版社から、同じ漫画の別バージョンを出したりしているので、(バオパブリッシングは)漫画の権利がどの出版社にあるのかわからず、僕に直接連絡してきてくれたみたいです。

せっかくなので「この巻も出したい」「日本で出していないこの部分も出したい」など自分で色々交渉してみると、バオパブリッシングは「全然OKだ」というんです。そこで、「日本では企画が通りにくくなっているのに、海外だと企画がちゃんと通る。これはどういうことだ?」と考え始めました。

色々考えていくと、国内だと「再販制度」という日本独自の仕組みがあって、これは書店が出版社から本を取り寄せて、売れなければ本を返せる、という制度なんですが、海外にはこれがない。書店が出版社から買い切る形だから、出版社も多少冒険的な作品も世に出すことができる。だから、自分のスタイルで企画が通らなくなったのは、自分の作品に魅力がないと言うことではなく、日本の法律とか制度の違いかもしれないと思い始めました。

そこで、作品の権利や出版は、自分でコントロールしたほうが作品は行き届くんじゃないかと考え始めたんですね。

実際イタリアの出版社で、出版契約を結んだのですが、直契約なので結果的にしっかりしたお金がアドバンスとして入ってきた。漫画を描くことが僕の仕事だと考えていたけれど、契約だけでビジネスになった。その時「出版社のやっていることって、これだ!」と、理解したんです。

自分の漫画をD2Cで販売する

西島:出版社で出していた頃も、タイ語版や中国語版、スペイン語版など結構出てはいたんですが、どれも途中で止まってしまっていて。担当編集さんに聞いてみても、なぜ続きが出ないか海外担当じゃないからわからない。みたいな状態になっていました。その時は「ああ、そういうものかな」と流していましたが、イタリアでの経験から、自分の認識は甘かったんだなと思いました。

自分で直接交渉すれば、ちゃんと本は出るし、要望は通るし、中間が取られずちゃんとビジネスになる。

そこから国内に目を向けて、現状企画が通らないのなら、自分でやるしかないなと決断しました。契約書を改定したり、覚書を交わしたり、権利関係を整理して、自分で電子書籍のレーベルを立ち上げて電子書籍を出すようになりました。

その後はしばらく、電子書籍を各種アプリに配信するディストリビューターを経由して配信していたんですが、今組んでいる平田さんからのお話があり、ECサイトを作る流れになりました。

平田さん(以下平田):西島さんとは以前働いていた時のご縁で、何か一緒にやりたいなと思っていて。久しぶりにご連絡した時、西島さんが1人で電子出版を始められたタイミングでした。最初は西島さんがご自身で公式サイトを作られていたんですが、ショップ販売や定期購読など可能性を広げる意味で、Shopifyへの移行をご提案をしたんです。そこで本格的にShopifyでサイトを立ち上げました。

Shopifyを選んだ理由

 

「物を売る機能」より「コンテンツ配信ができる」ところに魅かれた

平田:なぜShopifyを使ったのかという点ですが、まずはサブスクができる点ですね。西島さんと考えていた「漫画を無料で読み放題のサブスク」が、アプリで実現できるという点は大きかったですね。

また会員限定ページを作って、会員だけに限定コンテンツを見せられることも大きかったです。多分他のストアさんとは違って「ものを売る」より、「コンテンツ配信ができる」が先なんですよね。

まだグッズはできていない、という逆転現象が起きてしまっているんですけど(笑)。

(取材時点。記事公開時は『ディエンビエンフー』Tシャツの販売を開始しました)

1つのプラットフォームでコンテンツを電子配信できて、グッズ販売もできる。さらにサブスクなど自分たちのやりたいことが実現できるとなるとShopify一択でしたね。 

西島大介.comで漫画のサブスクを始めたきっかけ

-そもそも、なぜ漫画のサブスクを始められたんでしょうか?

平田:最初はグッズを売ったり、会員ページを作れたりという目的でShopifyを始めたんですが、色々いじっているうちに、サブスクもできるとがわかって。だったら、「電子書籍読み放題のサブスクをしませんか」と西島さんに提案したところ「面白い!」とお話をいただいた流れですね。

西島:漫画のサブスクって、権利の関係で結構難しいんです。それこそ、出版社一つ一つが大きすぎて、これを横断して漫画を読めるようなサブスクは、読者は望むけれど、やっぱり成立しにくい。

そんな漫画業界で、サブスクができるのって面白いなと思いましたね。と言っても、権利の整理が済んだ僕の作品だけなんですけど、「作家個人のサブスク」ってあまりないし、新しいことはやってみようと。

アプリと専任サポートで作りたい物に集中できる

-サブスク実装に「定期購買」アプリを使われてみて、使い心地だったりサポート環境はいかがだったでしょうか?

「初めて」にはサポートが必要

平田:実は、サブスクアプリを導入する際「Bold Memberships」や「Recharge Subscriptions」といった海外製のアプリを試してみたんです。

ただ、僕たちのやろうとしている、『漫画の読み放題をShopifyのサブスクで実施するモデル』はまだ日本ではやっている人がいなくて。Liquidの編集やアプリのエラーで行き詰まって検索してみても自分と同じ状況の人がいないんですよね。
結構そこで、辛くなってきてしまって。

国産アプリならではの丁寧なサポート体制でスムーズに導入できた

そこで日本製で日本語サポートのある「定期購買」を入れてみました。サポートの方に設定方法やエラーのことだったりを色々お伺いすると、結構丁寧にサポートしてくれる。

それこそ、実装したかった「会員限定ページで限定コンテンツを配信する」ということが「Locksmith」というアプリで実装できるということを教えてくれたり、やりたいことをやるためにしっかりとオペレートしてくれました。Shopify上での設定や、サブスクの仕組みはとてもスムーズに構築できました。

西島大介.comの会員ページ

 

「作者一人のサブスク」でファンとの距離をもっと近くに

-漫画でサブスクをやっていく理由はどんなところにあるんでしょうか?

平田:漫画でも映画でも「作者を横断するサブスク」って結構あると思うんですけど「作者1人のサブスク」って、なかなかないと思うんですよ。コンテンツ量が割に合わないという考え方もあるかもしれないですが、それは「サブスクの捉え方」の違いで、「作者1人のサブスク」は「ファンクラブ」に近いところがあると思います。

西島:僕は、この「一人サブスク」は「更新され続ける大全集」みたいなものだと捉えています。実際、「大全集」と「電子書籍」の相性は非常によくて、場所を取らないし、更新され続けるから紙の本を買い直す必要もない。また、自社ECならではのメリットとして、先行読みができるスピード感も良い。一般的な流れで電子書籍を出すには、データができてから2カ月くらい時間がかかりますが、自社ECならデータができたその日に出すこともできます。 

-ファンには嬉しいサービスですよね。

平田:それができるのは、西島さんが作品の権利を自分で持っていることと、Shopifyと定期購買アプリで構築したサブスクリプション環境があるからこそなんです。

まだまだ、世界でもこの「一人サブスク」の事例は少ない。今後グッズを販売したりして、収益化を進めていく中で、良い先行事例になれればなと思っています。

表現者が自分の作りたいものを作りながら食べていける世界を実現する

-この取り組みが成立すれば、表現者が自分の作りたい物を作りながら、食べていけるようになる気がします。

西島:そうですね。

作者が自分で作品の権利を管理して電子書籍を配信すれば、利益率は当然高くなります。イタリアとの契約も、直契約でない場合、せっかく契約しても小さくなってしまう。手間は多いけど、ちゃんと「自分の作品で食ってるぞ」という実感があって、健全だと思います。

僕はグッズ作りやファンサービスが上手くないのですが、平田さんの提案が上手く動けば、Shopifyでグッズを作って売って、収益化しながら、それを元手に完全にインディペンデントで作品を作れるサイクルができるはずです。

大きくはなくても、作品を通してファンと直接繋がり、大資本に頼る事なく作品を作り続けられる世界ができるかもしれません。これはそういう「実験」ですね。