「実際みんな、どうやってEC運営してる?」
専門用語が並んだ記事はいっぱいあるけれど、個人でECを立ち上げた人や、会社内でECを担当している人、現場環境の人がどうやっているのかは、意外と知られる機会の少ないECのお仕事。
そんなECのお仕事を、ネットショップの顔でもある、EC担当の方々の体験談を通して知ってもらうべく、”等身大のECカルチャー”をコンセプトとしたインタビュー企画、「ECの顔」を連載中。
第3回目は”調理器具編”。1951年創業、新潟燕三条の老舗メーカーが展開する調理器具ブランド・仔犬印(こいぬじるし)で、ウェブ全般を担当されている小片昇(おがた・のぼる)さんにお話を伺いました。
創業71年、老舗調理器具ブランド「仔犬印」
–はじめに、小片さんの担当されている仔犬印について、お伺い出来ますか?
仔犬印は、1951年に設立した調理器具メーカー「本間製作所」から生まれた調理器具のブランドです。ホテルやファーストフード、レストランなどで使われている、業務用の調理器具を中心に、ものづくりを行ってきました。
実は業務用だけでなく、ティーポットなど一般家庭で使える商品もありまして、今までも愛用してくださっている消費者の方がちらほらいらっしゃったんですね。SNSでも、仔犬印のハッシュタグがついたお客様の投稿があったり。そんな中、業務用だけでなく消費者向けの製品を作りたいという話を、弊社の代表としておりまして。そこから私は本間製作所にジョインしました。
-小片さんは、仔犬印でどのようなお仕事を担当されていますか?
ECやコーポーレートサイトを含めたウェブ全般ですね。その他には、一般販売はしていませんが、社内や関係者向けに、パーカやポップソケットなどのグッズを作ったりしています。
-ECではどのような業務をされていますか?
出荷や梱包などは別のスタッフが担当していて、それ以外の商品登録や問い合わせの管理、あとはプロモーションの企画や運営などを、私含めて2名体制でやっています。
-過去の経歴含めて、小片さんはECを担当されて何年目になりますか?
たぶん…18年目?くらいですね。
-18年!大ベテランですね。今まで、どのような会社を勤められてきたのでしょうか?
最初は東京ガールズコレクションを運営している会社で、「ガールズショッピング」というECを担当しておりまして。その後にファッションブランドの「FR2」などを運営している、株式会社せーのという会社で、7年ほどウェブ事業部を担当していました。その他にも韓国ECサイトの運営をしていたり、ウェブ接客ツールを提供しているFLIPDESK(フリップデスク)に、5年ほど関わっていました。
売上2600万超、”Makuake”を活用したマーケティング販売
-仔犬印がECをスタートされたのは、比較的最近だったんですね。
そうなんです。仔犬印で一般向けにECを始める話をしたのは、2019年の12月頃ですね。まずスタート時に課題として感じていたのは、ただ自社ECを立ち上げても、集客に時間とお金がかかってしまうこと。それに加え、業務用製品が中心の仔犬印は、どういったお客様が使ってくださっているかが、実際あまり見えていない。
これらの課題をクリアするために、自社のECストアを立ち上げる手前で、Makuakeでの新商品の販売を活用しました。最初に一般向けとして発売したのが、ボウルとザルのセットです。ボウルとザルは安く買おうと思えば100均でも買えるので、正直発売するまで不安があったのですが、高い機能性や耐久性を丁寧に伝えて販売することで、約1100万円の売上と、多くの応援購入やご支援を頂くことが出来ました。
ここからは新商品が出る度に、まずはじめにMakuakeで販売するということをやっています。第3弾では、学校の給食センターで使われている業務用の給食缶を、家庭向けに運搬容器としてデフォルメして販売したところ、2600万円以上もお買い求め頂けました。
–BtoCへ販路を拡大する際、スタート時の認知拡大がまずハードルになるかと思います。仔犬印では、ローンチ時だけMakuakeを利用されているだけでなく、継続的に活用されていらっしゃるんですね。
Makuakeへの販売手数料の支払いはありますが、今の段階では広告費をかけるより確実だと思うので、継続的に利用しています。第1弾の販売を機に、弊社の商品をこの値段でも買って頂けるということが分かったので、Makuake内の活動レポート(応援購入者への進捗報告ページ)内で、自社ECサイトのオープン告知も謳い、仔犬印の商品を買って下さった方々を作った状態で、公式ストアをオープンする流れを作りました。
-現在はどの販路で商品を販売されていますか?
販売はオンラインのみで、自社含めて3店舗ほどです。実店舗は今売っているところがなくて、今後、ショールーム的なものを東京とかにおきたいねって話は代表と話していますが、実現はもう少し先になるかなと思います。
機材不要!”スマホ”と”自然光”だけで作る商品画像
-”調理器具”を扱うECとして、こだわっているポイントはありますか?
正直なくてですね(笑)私自身が料理をしないので、どこをよく見せるべきかが分かっていなかったんですよ。ただ、ストアを立ち上げる時は、”ブランドの世界観”だけは意識して作るようにしました。
例えば、こういうコンクリート調の世界観が今の仔犬印かなと思っていまして。これも実はうちの納屋で撮影しているんですよ。撮影自体もスマホで。唯一のこだわりとしては、この世界観を”スマホで表現する”っていうところですかね。
-スマホ撮影でもかなり高品質に見えますが、商品を高見えさせるコツはありますか?
手前味噌かもしれないですが、普通に撮っても良く見える商品が、仔犬印には多いなという印象があって。そのため、ライティングのセットも特にやってはおらず、自然光でノーマルカメラを使って撮影しています。晴れた日限定っていう難点はありますけど(笑)一眼レフや機材を使って撮影するのももちろん大事だとは思いますが、まずはスマホでいいのではないかなと思います。
ものづくり企業×Slack導入による生産性UP
-他チームとの連携方法など、ECを上手く運営するコツはありますか?
弊社はものづくり企業なので、事務と工場でスタッフが二極化しているんですね。その中で事務スタッフが10名ほどになるんですが、今まではメールや電話で社内のやり取りがされていて。それを効率化をしていくために、私の方でSlackを導入して、現在は社内のやりとりはすべてSlackに移行しています。
-みなさん、Slackへの移行に抵抗はなかったですか?
思ったよりみなさん抵抗がなかったのかなと感じています。ただ現状は私が必要に応じてチャンネルを作成しているので、「こういったチャンネルが欲しい」といった声が出てくると更に活発化・効率化すると思います。メールで確認するほどでもないけど、電話では相手の時間を奪ってしまうしエビデンスも残らない、そのようなときこそSlackを最大限に活用していってほしいと考えています。
自社外の販売を使って、”自社コンテンツ”を拡充
-オンラインストアでは、商品のこだわりを紹介する”読み物”コンテンツも掲載されていますね。
こちらの読み物、実はMakuakeでの販売に必要な”プロジェクトページ”と呼ばれるLPを、そのまま流用しているんです。元々コンテンツの著作権が自分達にあるので、自社コンテンツを増やすためにMakuakeをやっているっていう側面もありますね。
コンテンツも自社制作ではなく、弊社商品を取り扱って頂いている”クラフトストア”で制作したものでして。コンテンツを作るのが非常に上手な会社なので、Makuakeのプロジェクトページ制作をお願いしています。実際に自分達のストア(クラフトストア側)でも商品を販売するので、そこで使える素材ということも含めて、より良いコンテンツを作ってくれるというメリットがあります。
-自社ECと販売先の全てでコンテンツを共有し、その制作も販売先が自ら行うというのは、とても合理的ですね。こういったコンテンツはもっと増やしていかれる予定でしょうか?
あくまでMakuakeでリリースした、新商品の読み物コンテンツをベースにしつつ、代表の想いとかを伝えるブログ的なコンテンツを増やすのは、面白いかなと思っています。
小片さんが個人的に「面白い」と思うECサイト
-小片さんが個人的に「ここ面白いな」って思うECサイトはありますか?
「NO COFFEE」は面白いなと思います。NO COFFEEは元々東京で働いていた人が福岡に移住して立ち上げたんですが、自分と重ねている部分(東京から新潟に移住)があるかもしれません。東京で働いてた人が地方に行って、何の保証もない中でブランドからECまで立ち上げて、今で設立7年目くらいになるんですけど、一切広告費をかけずにここまできたっていう。
-私もサイトをブックマークしています。飲食に留まらず、オリジナルグッズやブランドとのコラボアイテムなどを、ECでも販売されていますよね。
コラボとかも、人脈の成せる技ですよね。見事なブランディングだなと思います。前職のFR2もですが、どう広告をうまく回すかより、いかに広告をかけずに認知度を広げられるかを考えた方が今時だし、ブランド戦略として本質的なのかなと思っています。
-最後になりますが、記事をご覧頂いているみなさんへ向けて、仔犬印の中で一番おすすめの商品を教えて頂けますか?
料理をされる方であれば、弊社の「ボウルシリーズ」は、ぜひ手に取ってみて頂きたいです。一般的なボウルって、フチが巻かれて作られているんですよ。そこに水が溜まって不衛生になりがちなのですが、仔犬印のボウルはフチがフラットになっており、巻いてないので水が溜まらずに衛生的、かつ洗いやすい。そこが売りのひとつです。
あとは、ボウルの内面へ丁寧に磨きをかけているので、卵を落とした時の”スルスル”感とかも、手に取って頂ければ違いを感じて頂けますし、実際に溶いた卵を注ぐ時の”スルッ”と切れる感じも、違いとして体感しやすいと思います。この辺は料理をしない自分でもすごいなと思ったので、手にとって、使ってみて、初めて分かる感動がある部分です。
編集後記
とても柔らかい物腰で、取材に応じて下さった仔犬印の小片さん。インタビューでこそ謙遜されていましたが、外部ECのプロモーション活用や、エコシステムに近しい形でのコンテンツ運用など、自社EC、外部ECの境界線にとらわれない、EC運営の一片をお聞かせ頂きました。どうもありがとうございました!
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